第9章 アナタの芸
「それで、骨折していて」
なんとでもないというふうにヤマトさんはそう言った。俺は次の言葉を待った。役者が怪我をするということがどういうことなのか、分かっていながら。
「……雅楽舞踏役者は、もう出来ないかも」
ドキリとした。それは嬉しいとか驚いたとかではなくて、恐怖だった。
「それ、は……」
俺はなんとか言葉を絞った。情けないくらい声が震えて俺は膝の上で拳を握った。泣きそうになる気持ちをグッと堪える。泣きたいのは俺だけじゃないはずだ。俺はヤマトさんの顔をちゃんと見ることが出来ているのか自信はなかった。
「約束、破っちゃったね」
「そんなことは……!」
俺はヤマトさんの目を見つめた。ヤマトさんの目がずっと悲しくて、俺は言葉の続きが言えなかった。
俺は座り直して自分の膝へ視線を落とした。
「その、俺の約束……覚えてくれてて、嬉しいです」
これが慰めの言葉ではないと分かってはいるけれど。
他に掛ける言葉も思いつかなくて。
見るとヤマトさんは、俯きながら力なく笑った。そんな顔を見ると心がますます苦しくなった。俺の言葉が、こんなにもヤマトさんを縛っていたのだと思うと、尚更。