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一宵の舞

第9章 アナタの芸


「嬉しかったんだ。あの時、トオル君がそう言ってくれたこと」ヤマトさんは話続ける。「いつもなんとなくやっていた雅楽舞踏に本気になれたのも、トオル君のおかげだった。……ははっ、先輩なのに、元気付けてもらって情けないよね」
「そんなことないです!」俺は声を張った。「俺は、今でも……今でも俺にとっては憧れの先輩で……」
 あ。これ以上言ったらマズイな。俺は勢いで前のめりになっていた上体を引っ込めて明後日の方向へ目を向けた。俺はこんな状況で告白するつもりか? そんなの格好悪いだろ、弱ってるヤマトさんに付け込んでいるみたいで。
「トオル君」
「は、はい」
 ヤマトさんの言葉に俺は反射的に返事をしながらも、その目を見ることはもう出来なかった。ヤマトさんは俺の心の中を見透かしたんだろうか。それとも、これから見透かされてしまうんだろうか。頭の中は整理がつかなかった。
「トオル君、もう十の芸は全て習得したんでしょう?」
「はい」
「じゃあ、トオル君の芸は?」
 雅楽舞踏にある芸は基礎だけだと十種類しかなかった。それは十七歳くらいには習得しているものとされていて、それ以降は自分オリジナルの芸を開発、習得することを許されていたのである。個人差はあるが、俺が雅楽舞踏を始めたのが十歳の頃だから、七年間の修行を経ている俺には、充分にその資格が与えられていた。
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