第10章 始動
遡る事、数分前ーーーーー。
「あ…」
首元を細い鎖が滑り落ちる感覚がして咄嗟に抑えたけど、一拍の後シャラン…と甚爾さんからもらったネックレスが床に落ちた。
チェーンが切れちゃったのかな。
すごく大事にしてたのに。
リビングの床に落ちたネックレスをかがんで拾い上げる。
傷、ついてないかな…?
「あれ…」
甚爾さんと恵の瞳の色の石に、一筋の罅が入っていた。
ドクン、と心臓が大きく鳴る。
嫌な予感がした。
一際大きな拍動のあと、ドクドクと動悸が激しくなって、呼吸がうまくできなくなる。
「はぁ…はぁ…は…っ…」
思わず恵を見ると、おもちゃで遊んでいた手を止めて心配そうに私の方に近づいて来た。
「…いたいいたい?」
「はぁっ…めぐみ…だいじょうぶ…だいじょうぶだよ…」
不安そうに見上げる恵の頭を撫でてあげたけど、息苦しさはまだ治らない。
こんなこと初めて…何か…おかしい。
甚爾さんに…何かあったのかもしれない。
何の根拠もないけど、居ても立ってもいられなくなって震える手で携帯から時雨さんのアドレスを呼び出して、発信ボタンを押した。
数回のコール音の後、ガチャっという音がした。
『もしもーし、繭ちゃん?久しぶりー、電話くれるなんて珍しいねー、どうかした?』
「時雨さん…とうじさんは一緒ですか?」
『いや、さっき仕事が終わってアイツとは別れたとこだよ。繭ちゃんと恵に会いに行きたいって言ったのにアイツが許してくれなくて…』
「とうじさん、どこですか?今すぐ教えてください!お願い…」
『どうしたの繭ちゃん、落ち着いて』
電話越しに聞こえる時雨さんの焦った声。
失礼なことしてるってわかってるけど、説明のつかない焦燥感に駆られて感情がコントロールできない。
「今すぐとうじさんのところに行かなきゃ…とうじさんに何かあったかもしれないんです」
『……アイツには今回の依頼内容口止めされてんだけどなあ…』
「何でもします…お願いだから私をとうじさんのところに連れてってください!!」
『……とりあえず、今近くにいるからそっちに向かうわ。すぐ着くからちょっと待っててね』