第11章 再会
ドクリ、と大きく心臓が跳ねた。
全て見透かすように俺を射抜くガラス玉のような繭の瞳。
「二、三年後にガキが禪院家に売られることになってるって……。
……お前に後は頼む、って…」
「そう………わかった」
俺は、最低だ。
でも言えない。
死んでいくあの男が最期に放った、お前を一生縛り付ける呪いの言葉。
〝愛ほど歪んだ呪いはない〟
誰が言ったか覚えちゃいないが、正にその通りだよ。
俺を恨んでいい。
なにか…言ってくれよ繭。
俺を責めるような言葉でも、傷つけるような言葉でもいい。
なにか………。
「さよなら、悟」
それからの出来事を俺はただ突っ立って見ていることしか出来なかった。
一台の車がどこからともなく現れて、中からスーツ姿の男があいつの体を回収していき、地面に落ちた左腕は繭が自分の上着を脱いでそれにくるんだ。
男の捥げた左腕に触れる瞬間、繭の表情が一瞬泣きそうに歪んだけど、ほんとに一瞬の出来事で、俺の見間違いだったかもしれない。
男の体を乗せた車は音もなく走り去って行き、その場には立ち尽くした俺と男の残した大きな血溜まりだけが残された。
第一部・完