第10章 始動
side 伏黒甚爾
五条悟に呪霊操術使い、お付きのメイドに本命の星蔣体の暗殺。
コトは全て計画通りに進み、天内理子の死体を持って連絡を入れた時雨と盤星教本部へと向かう。
オレたちにとってはただのガキの死体でも、このイカれたおっさんと信者たちにとっては命にも変え難いもんらしく、幸運にも元の報酬以上のカネを手に入れることになった。
狂信者と金持ちのやることは理解ができねえが、金払いがいいに越したことはねえ。
盤星教本部を後にして、タバコを吸う時雨と肩を並べて歩く。
「金持ちは考え方のスケールが違うわ…ま、何にせよ無事に依頼が完遂できて一安心だな。お前にしては今回珍しく慎重になってたみたいだが…やっぱり五条悟は今までの雑魚どもとは違ったか」
「…別に。念には念を入れただけだ。蓋開ければ五条の坊もそこまで大したことねーよ」
「まあこれで少しはお前らの生活も落ち着くんじゃねーか、良かったな。巻いたことだし、酒でも飲みに行くか」
「…いや、今日は帰る。」
「はーやだやだ、急に愛妻家になっちゃって。俺もお邪魔しちゃおっかな、繭ちゃんの美味い飯久しぶりに食いたいし」
「来んな」
軽口を叩き合った時雨と別れ、繭と恵の待つ家へと足を向ける。
時雨にはああ言ったものの、実際のところ今回の任務はオレにとって特別なものだったのは間違いない。
相手が無下限呪術と六眼持ちということだけでなく、いつになく失敗できない依頼としてオレにしては珍しく気負っていた。
これで、繭が奪われる最も大きな不安要素はなくなったはず。
無意識にピリついていた神経が徐々に緩んでいく感覚。
今まで神経を張り詰めていたせいで気にならなかったが、日陰から出ると太陽の光は目を刺すようで、もうすっかり夏の気配を感じさせる蝉の鳴き声が聞こえる。
曇り空の隙間から太陽が顔を出し、降り注ぐ日差しが眩しくて思わず手で遮った。
目を細めた視界の中に何かが見える。
「ぁあ?」
そこには、いるはずのないモノが確かに存在していた。
「よぉ、久しぶり」
「…まじか」