第10章 始動
「急にいなくなったと思ったら…お馬さんかよ。何してんだよ、仕事はどうした」
「仕事してんだろぉが。相手は五条家の坊だぞ。のこのこ出て行ったところでなんもできねぇ…」
「お前でもか?」
「さぁな…でも策を練るに越したことはねえ。まずは莫迦共を使って削る…テメェこそ仕事しろよ。引き続き五条悟周りの情報集めとけ」
「したわボケ。どんだけ繭ちゃんのこと心配してんだよ…兄貴やったのもお前か?なんでだよ」
「……」
「まただんまりかよ。お前らしくないな、手付金全部手放してまで懸賞金かけるなんて。
…星蔣体が死んだら手付金も成功報酬もなしになるんだぜ」
「…わぁってるよ。心配しなくても仕事はちゃんとやるっての」
「頼むぜ〝術師殺し〟。
…そういえばしばらく会ってねえけど繭ちゃんと恵は元気か?また繭ちゃんの好きなスイーツ持って会いにいくわって伝えといてくれ」
「いらねーよ。来んな。
…時雨、今回の依頼の件は繭には言うなよ」
「へーへー、わかりましたよって」
後ろ手にひらひらと手を振る時雨。
元々そこまで真剣に観ちゃいなかったが、レースは大外れ。
ただの紙切れと化した馬券を握り締めてその辺に放る。
これから48時間、3000万の報奨金目当てに星蔣体・天内理子を狙って呪詛師どもが沸いてくる。
オレが本格的に動き出すのは五条の坊の体力が削られてからだとしても、いつもに増して下準備がいる依頼だから2,3日は家を空けることになるな…。
そんな時ふと頭に思い浮かぶのは繭のこと。
オレがいなくて寂しがるだろう繭の顔が容易に想像できて、足は勝手にアイツの好きなケーキ屋へと向かう。
時雨に茶化されても仕方ねーくらい、甘いよなオレも。
昔の自分からが見たら鼻で笑っただろうな、オレがオンナのご機嫌取りしてるなんて。
でも、今はそんな自分が嫌いじゃない。