第9章 蚊帳の外※
ベランダから出てもう一度恵の様子を見ると、まだぐっすりと眠っていた。
オマエだって同じだろ?
まだ繭と出会ったばかりの頃は言葉も少なく喋りも辿々しかったコイツも4歳になり、繭がよく世話を焼いてるおかげでだいぶヒトらしくなってきた。
オレの前では相変わらずあんま感情も出さねーし甘えてくることもないけど、繭の前ではガキらしく甘えたり拗ねたりしてるらしく、オレはめんどくせーなとしか思わないその変化にも繭は喜んでる。
オレがそう呼んでるせいでコイツも〝〟と呼び捨てで呼んでんのは気に食わねーけど。
あまりモノに執着を見せない恵だが、オレが繭に近づこうとすると明からさまに邪魔をしてくることも度々あり、時々ほんとに憎たらしさを感じることもある。
「親子揃ってオンナの趣味が一緒とか勘弁しろよ」
ずり落ちたブランケットを腹の上にかけてやって、寝室に戻る。
携帯をサイドテーブルに置き、ベッドに上がるとオレの気配に気づいたのか繭がうっすらと目を開けた。
「…とーじさん?あれ…わたし寝坊しちゃった?」
「オレが珍しく早く起きたんだよ。恵も起きてねーし、まだ寝てろ…体痛いとこないか?」
「だいじょーぶ…でもとーじさんいなくて寒かった…」
繭が体を寄せてきて、素肌同士がぴとりとくっつく。
繭の言う通り布団から出た肩はひんやりしていて、温めるようにその肩を抱いてやる。
「ふふ…とうじさんあったかい」
オレの胸に顔を埋めてくぐもった声で笑う繭が可愛くて、ぎゅっと抱きしめるとだんだんとオレの熱が繭にうつっていく。
「恵もこども体温だからすごくあったかくて、抱っこしてるとぽかぽかしてくるんですけど、とうじさんは大人なのにいつもあったかいです…」
「アイツと一緒にすんなよ」
「でも二人って似てるとこいっぱいありますよ。…きれいな黒髪と目の色と形もだし、鼻筋がスッと通ってるとことかも…」
「あとオマエが大好きなトコな」
オレを見上げる繭の唇にちゅっと触れるだけのキスをする。