第8章 瓦解(がかい)※
side 伏黒甚爾
腹が立った。
コイツがあまりにも馬鹿なことを言うから。
繭のことだから、オレと恵に迷惑をかけたくないとか申し訳ないとか、そういうことを考えて出て行くって結論に達したんだろうと、頭では理解しているつもりだ。
でも、そんなにも簡単に手離してしまえるほど、オマエにとってオレはなんでもない存在なのかよ?
思いもよらぬ出会いから始まって、まだ出会って間もないけどオレにとってオマエはもう欠かすことのできない存在になっていて、オマエと恵と過ごす何でもない日常にいつの間にか心地よさを覚えてしまった。
思い出すのは、誰かが言ってた言葉。
〝愛ほど歪んだ呪いはない〟
オレの目の前で俯いて今にも泣くのを堪えている繭。
その震える肩を優しく抱いてオマエを安心させるような言葉を言ってやれるような男だったら良かったのに。
オマエを失うかもって恐怖がオレの余裕を奪っていく。
「とうじさん…?」
涙を溜めた目でオレを見上げる繭。
その無意識に男の欲を刺激するいとけなさも無防備さも今は腹立たしい。
少し力を込めれば容易く折れてしまいそうな頼りない腕を引いて、乱暴にベッドの上に放り投げた。
純粋で穢れを知らない繭。
その不安げな表情に、何かに縋るような眼差しに〝守ってやりたい〟という感情と〝傷つけてやりたい〟という相反する感情が秤のように揺れている。
ベッドから動けずにいる繭の上に覆い被さって、怯えた小動物みたいに震える肢体を見下ろす。
小さい顔、細い首、華奢な肩…。
捕食者としての本能が腹の底からじわじわと疼き出して無意識に唇を舐めた。
その美味そうに赤く色づいた唇に触れそうなほど近づくと、怯えた獲物の浅い息遣いを感じる。
オマエは〝食われる側〟なんだってこと、忘れることがないように刻みつけてやる。
「オレみたいな呪力ももたない猿に傷物にされちまったって知りゃ、五条悟もオマエの家も流石に諦めるんじゃねー?
…試してみるか?」