第8章 瓦解(がかい)※
「わかってるよ。だから引っ越すって話だろ」
「…わたし、新しいお家には一緒に行けません。ここを…出ていきます。
甚爾さん、助けてくれて今までありがとうございました…たくさん迷惑かけてごめんなさい」
声が震える。
本当はずっとここにいたい。
甚爾さんと恵と一緒にいたい。
「…オマエそれ本気で言ってんの」
「……本気です」
でも、私の幸せより、甚爾さんと恵にはこんなことに巻き込まれずに幸せになってほしいから。
私がいる限り、今日みたいなことがまた起きる可能性は十分に考えられる。
ただでさえ甚爾さんは禪院家の出なんだから、五条家当主の許嫁である私と一緒だと知られたら、余計に悪い事態を招くことが容易に想像できる。
だから、泣かないでお別れを言わなくちゃ。
恵が今この場にいなくて良かった。
あの子の顔を見たら、また決心が鈍るから。
甚爾さんの顔が見れない。
もう最後だからよく見ておきたいと思うのに、見たら涙が出てきてしまいそう。
甚爾さんはどんな顔をしてる?
怒ってる?それともこんな私に呆れてるかな…。
「…悪いけど、はいそうですかって返してやれるほどオレは甘くねーよ」
ベッドが軋む音が聞こえたと思ったら、一瞬の間に私の目の前に甚爾さんが立っていた。
驚いて思わず甚爾さんの顔を見上げるけど、その表情は影になって窺えなかった。
「オマエが本気でオレから離れたいなら、精々頑張って抵抗してみろ」