第8章 瓦解(がかい)※
家名を何よりも大事に思ってるお母様のことだから、たぶん悟の許嫁である私が出て行ったことを大事にはしたくないと思うはず。
もしかしたら、悟はうちで起こったことも何も知らないかもしれない。
「〝悟〟…ね。許嫁って言うけどオマエ…実際のところ五条悟とはどうだったんだよ」
「悟とは…6歳の頃に家同士が決めて許嫁になって…初めて会った時は怖かったけど、仲は…良かったと思います」
「ふーん、もうヤッた?」
「やった…?」
「あー…いい、聞いたオレが悪かった。…まあそれはよしとして結局肝心なところの、オマエが家から逃げてきた理由はなんなんだよ」
「それは……」
お兄ちゃんを庇うわけじゃないけど、悪く言うようなことは言いたくない。
突然人が変わったようにおかしくなってしまったけど、それまでは私にとっては優しいお兄ちゃんだったから…。
「…まあ、あの夜のオマエの状態からして何となく想像つくけどな。まさか、オマエを襲ったのって五条悟じゃないよな?」
「違う!悟は…そんなこと絶対しない…」
「へー…信頼してるんだな。…じゃあ誰だよ。一応オマエも術師なんだからそこらの一般人相手にヤられかけるわけねーだろ」
「………」
「身内か?父親か…、樹下家ってオマエの上に兄貴いたよな。ソイツか」
「…違います」
「なんでそんなヤツ庇うんだよ?血の繋がった妹犯そうとするなんて頭イカれてんだろ…オレが殺してやるよ」
「やめて甚爾さん」
部屋の中の空気がどんどん緊張感を増してきて、抑えていても甚爾さんの怒りが漏れ出しているのを肌で感じる。
牙を剥き出しにした肉食獣が獲物を前に唸ってるような殺気を感じて、本能的に体が縮こまって、声が震えてしまう。
「はあ…」
ため息をついて片手で顔を覆った甚爾さん。
「悪い、ビビらせて…オマエに腹立ってるわけじゃねえよ。…とりあえず、これからどうするかだな。念のため今の家はバレたと思った方がいい。時雨に新しい家探させるか」
「…とうじさん、わたし…」
「家の条件考えとけよ。オマエ料理するからキッチンがどうとかあんだろ?」
「とうじさん…わたし、もうここにはいられません…」