第7章 萌芽(ほうが)
「…あとはオレと繭で話すから、お前はもう帰れよ」
「えー、俺も知りたいのに繭ちゃんのこと」
「オマエは今日知り合っただけの他人だろ」
「お前ほんと薄情だなー、だから俺以外に頼れる奴がいねえんだよ」
「うるせえよ、早く帰れ」
「へーへー、お邪魔虫は退散しますよ。あ、繭ちゃんコレ俺のプライベートの携帯番号ね、何か困ったことあったらいつでもデンワして♡」
「あ…ありがとうございます」
「破って捨てろそんなもん」
孔さんが手書きの電話番号を名刺の裏に書いて、戸惑っている私の手にぎゅっと握らせてくれた。
「あと、大丈夫だと思うけど念のため、俺の知り合いの医者のところで恵の傷診てもらうから、今日はオレが預かってまた明日の昼頃連れてくるわ。心配しないでね繭ちゃん」
「はい…よろしくお願いします」
眠ったままの恵を孔さんが抱っこして入口のドアに向かう。
本当は付き添って行きたいけど、今は私が一緒にいる方が恵にとって安全じゃないかもしれない…。
甚爾さんが孔さんを入り口のドアまで送って行き、恵を抱っこした孔さんの背中がドアの向こうに消えると、パタン…という音とともに部屋の中が静まり返った。
部屋に甚爾さんと二人きりになった途端に緊張感を感じる。
振り返った甚爾さんがゆっくりこっちに近づいて来るのがわかるけど顔を上げられない。
隠し事も嘘も全て見抜いてしまいそうな甚爾さんの鋭い目が今は怖くて。
「繭、座れよ。オレに話さなきゃいけないことがあんだろ」
甚爾さんが座ったベッドがギシッと音を立てる。
おそるおそる顔を上げると、肉食獣を連想させる鋭い翠色の目は、私をまっすぐ捉えて離さなかった。