第7章 萌芽(ほうが)
「オマエはいつも急過ぎんだよ」
「さんきゅ、わりぃな」
部屋の中にはスーツを着た男の人が煙草を吸っていた。
昼間の記憶が甦って思わず身構えたけど、甚爾さんが普通に喋っているので知り合いなのかな…。
甚爾さんに続いて部屋の中に入ると男の人と目が合って、私を見ると吸いかけの煙草をポロッと落とした。
「オイ、吸い殻拾っとけよ」
「…おいおいおい。お前ついに落ちるとこまで落ちちまったのかよ」
「あ?何の話だよ」
嫌そうに顔を歪める甚爾さんの肩を抱いて、甚爾さんの耳元でひそひそ話す男の人。
二人だけの会話に入れず部屋の中を見渡していると、大きいベットが部屋の真ん中に一つ、あとテレビや小さい冷蔵庫、テーブルと椅子がワンセット、別の部屋にトイレとお風呂といったホテルの一室だった。
恵をベッドに寝かせ、部屋の中を見て回っていると内緒話が終わったのか、先ほどの男の人がにこにこしながら話しかけて来た。
「繭ちゃん?俺は孔時雨。こいつの仕事関係の知り合いっつーか腐れ縁っつーか…まあそれは置いといて、よろしくね」
「よろしくしなくていーぞ繭」
「何でだよ!お前の無茶振りに今回だって応えてやったろーが!ホテル関係者に口止め料として高い金払ってんだよ」
「この前の報酬から引いとけよ。まだ振り込んでねーだろ」
一応、差し出された手を取って握手する。
甚爾さんと同じ歳ぐらいなのかな…?
近づくとふわっと煙草の匂いがした。
「…繭です」
「うんうん、よろしくね…はーん、なるほどねー」
「繭、もう手離していいぞ」
「あだっ」
甚爾さんが握手したままの孔さんの手にチョップして無理やり手を離させた。
「オマエの周りから最近付き合い悪くなったって愚痴られたのはそういうことだったのかー、はいはいどうもご馳走様です」
「…うるせー」
「?」
私にはわからない二人だけの会話をする甚爾さんと孔さん。
甚爾さんの知り合いの人に会ったのは初めてだけど、見てるだけで付き合いが長いことがわかるくらい、二人は気の置けない関係なんだとわかった。