第7章 萌芽(ほうが)
繭にしては珍しい。
たぶん別のことに気を取られてたからだと思うが、なんだか今コイツを一人でどこかに行かせるのは気が進まない。
ちら、と横目で公園を見る。
町中によくあるタイプの小さな公園で、中にはちょっとした遊具やベンチ、公衆トイレがあって、今が平日の昼間だからか公園内に人はいない。
「いや、オレが行ってくるからオマエは恵とベンチに座って待ってろ」
「でも…」
「起きた時オマエがそばにいなきゃ恵がぐずるだろ。オレが行くほうが早えし、荷物置いてくから」
「はい…ごめんなさい、とうじさん」
「こんなことで謝んな」
元々元気がなかったのにさらにしゅんとしてしまった繭。
いつもと様子の違うコイツと離れるのは少し心配だけど、一人でどこかに行かせるより恵とここに置いてった方がまだマシだろう。
心ここに在らずな繭に、柄にもなくこのままどこかに行ってしまうんじゃないかと不安に思う自分がいた。
side 繭
「はあ…」
自分が嫌になる。
いつかは向き合わなければいけない問題を思い出してしまって、それに気を取られて甚爾さんと恵を心配させてしまったし、ミスをして甚爾さんに迷惑をかけてしまった…。
甚爾さんがスーパーに行ってくれると言うのでお言葉に甘えてしまって、公園のベンチで膝の上で眠る恵を抱っこしながらぼーっと辺りを見ていた。
これからどうすればいいのかを考えると気が重くなってしまうけど、ちゃんと気持ちを切り替えなきゃ。
心の中でよし!と気合を入れた時、私と恵の座るベンチの後ろの道路に車が止まった。
バン!という車の扉が開く音がしたと思ったら、次の瞬間背後に人の気配を感じた。
(油断した…!)
わたしのバカ、自分の置かれた状況を忘れるなんて。
後悔の気持ちが湧き上がると共に瞬時にこの場を切り抜ける算段をつけ始めながら、恵を腕の中に抱きしめた。
「んっ!!」
背後から薬品臭がする布で口を塞がれて、両腕を拘束されたと同時に、反転術式を薬品の分解に必要な臓器に当てて解毒する。
拘束された体がぴくりとも動かないところから考えると、相手は筋力強化くらいはできる術師であることがわかる。
腕の中にいた恵は私から剥がされて、別の男に捉えられている。
(恵… !)