第7章 萌芽(ほうが)
でもそういえば私は悟の婚約者…だったのか、今でもそうなのかわからないけど、悟のお嫁さんになる筈だったんだよね。
ふと急に、甚爾さんと恵と出会う前の生活を思い出した。
ここに来るまでも、ここに来てからもいろんな事がありすぎて記憶に蓋をしてたけど、私は元の生活から逃げて来たんだった。
甚爾さんは初め〝恵の世話をしてくれるなら家にいていい〟って言ってくれて、私はお世話になり始めたけど、それだっていつまで甘えていいのか…。
例えば恵のお世話がもういらなくなったら、それか…甚爾さんに誰か大事な人ができたら、私はあそこにいられなくなっちゃう。
急に現実を突きつけられた気持ちになって、スーパーの真ん中で思わず立ち尽くしてしまった。
「繭?」
「ー?」
私の様子を変だと思ったのか、前を歩いていた甚爾さんが足を止めて私の顔を覗き込む。
恵も真似して抱っこしてる腕の中から私を見上げた。
「どうした、気分悪いのか?顔色悪いぞ」
「ー、いたいいたい?」
「…大丈夫だよ。ごめんね、アイス見に行こう?」
私の異変に気づいた甚爾さんがあいしゅ!と喜ぶ恵を私の腕から下に降ろすと、恵は一人でアイスコーナーに駆けて行った。
私も恵の後を追おうとすると、ちょっと険しい顔をした甚爾さんに腕を掴まれて、至近距離で顔を覗き込まれる。
「大丈夫じゃねぇだろ。…オマエ今何考えてる?」
「何も…ほんとに大丈夫です。ちょっと貧血気味なのかも…。」
「……」
あまり納得してない顔をしてる甚爾さん。
甚爾さんはすごく勘が鋭いから、ちょっと怖い。
隠し事が苦手な私の嘘なんか、全部見破られてしまいそう。
それでも、今はまだ全てを話すことはできないから、心配してくれる甚爾さんに罪悪感を感じながらもあまり目を合わせないようにして、恵のいるアイスコーナーに逃げるように向かった。