第7章 萌芽(ほうが)
近頃は起きているとスーパーにも着いてくるようになった甚爾さん。
甚爾さんがいると普段買えないようなお米とか重いものも買えるからとっても助かるんだけど、スーパーに来ても私の後ろに着いてくるだけで特に欲しいものがなさそうなのに、一緒に来てくれるのは甚爾さんの優しさなのかな。
「恵、お外危ないからおてて繋いでね」
「おててちゅなぐ!」
恵の小さくて紅葉みたいな手を握ってスーパーまでの道のりを3人で歩く時も、さりげなく車道側を歩いてくれる甚爾さん。
こうやってなんでもないように自然に守ってくれるところも、甚爾さんの優しいところ。
スーパーに着くと歩き疲れた恵を私が抱っこして、甚爾さんがカゴを持って店内を歩く。
「今日のお夕飯は何にしようかな…恵は何食べたい?」
「あいしゅ」
「アイスはご飯の後ね。甚爾さんは食べたいものありますか?」
「肉食いてえ」
「お肉だったら何がいいかな…」
お肉コーナーを3人で歩いていると、試食コーナーの店員さんがニコニコしながら私たちを見ているのに気づいた。
「かわいいぼくちゃんだね〜。あらあらこんなパパとママから産まれたならそりゃこんなかわいい子が産まれるわ〜」
「え」
「おばちゃんコレ食っていい?」
「どうぞどうぞ、いっぱい食べてね〜」
思わずなんと答えたらいいかわからず固まってしまった私に反して、何も気にせず試食に手を伸ばす甚爾さん。
店員さんは気のいいおばさまで、その後もこのスーパーでは何曜日に何が安いとか、オススメのレシピとかいろいろ教えてくれたんだけど、私はきちんと返答できていただろうか。
そっか…私たちってはたから見ると家族に見えることもあるんだ。
店員さんから少し離れたところで、甚爾さんが私のそばに体を寄せて来た。
「なに固まってんだよ」
「…ちょっと、びっくりして」
「なんだよ、オレの嫁って思われんのは不服か?」
「嫁!?」
びっくりして思わず大きめの声が出てしまって、自分の口を抑えて辺りを見回す。よかった…他のお客さんはみんな気にしてなさそう…。
いろいろ通り越して、いきなり嫁ですか!?
というか、まず私と甚爾さんは恋人同士でもないのに…。