第1章 動き出した歯車
side 伏黒甚爾
数百年ぶりに生まれた六眼と無下限呪術の組み合わせ。
現在の呪術界の均衡を崩しかねない存在。
そう畏れられてるのは、まだ6歳になるガキ。
禅院家に非ずんば呪術師に非ず、呪術師に非んば人に非ず。
この馬鹿げた家訓をもつ家に生まれ、呪力を全く持たないオレとは真逆の存在だ。
一体、五条家のご当主様はどれほどのもんだよ?
そんなちょっとした興味本位で五条家の敷居を跨いだ。
呪力がないと気づかれることもない。
こういう時だけは自分が〝持たざる者〟でよかったと思う。
屋敷の中は呪術師たちや使用人達がバタバタと忙しなく行き交っていて、だれもオレの存在を気にすることがなく好都合だった。
どこからともなく聞こえた使用人たちの話によると、
齢6歳にしてこの家の当主である五条悟の許嫁候補がこの家に来るらしい。
五条の坊と同い年で、五条家の流れを汲む分家に隔世遺伝で生まれた反転術式持ちのガキ。
打算的な大人達は、六眼と無下限呪術、反転術式を掛け合わせた最強のサラブレッドが生まれることを期待しているんだろう。
まだ6歳の何もわからないガキ同士に何をさせているのか。
これだから、術師って奴らは気に食わない。
血統が全て、術式が全て。
己の家名を守るためには何を犠牲にしても構わない。
そんな腐った奴らばかりだ。
胸糞悪い気分になったオレは、さっさとご当主様の顔でも拝んでお暇しようと思い、適当に屋敷の中をうろついていたが、人よりだいぶ優れた聴覚が一つの声をとらえた。
この屋敷には似つかわしくない、押し殺したような啜り泣き声。
何故だろう。
普段のオレだったら気にも留めないはずなのに、その声の出所を探してしまったのは、ただの気まぐれだったと思う。
もしこの声の主が、噂のご当主様だったらウケるなというバカにした考えもあったかもしれない。
その予想に反して、泣き声の元は見知らぬ女のガキだった。