第7章 萌芽(ほうが)
この家にいてもいいと言われて恵のお世話をするようになった時は恵は泣くことも笑うことも、感情を表現することが少なかった。
今までずっとそうやってきたのか、リビングの床に転がるおもちゃで一人で遊んで過ごしていて、でも恵にたくさん話しかけながら一緒に遊んだりお世話をするうちにだんだんと笑顔を見せてくれるようになって、すごく可愛かったなあ。
それからは今までなかったけど何かしてほしいって要求することも出てきたし、うまくできなくて悔しいと泣くことも増えてきた。
すごく大人しくて手のかからないいい子だと思っていた恵が、子どもらしく笑ったり泣いたりしてるのを見ると私まで嬉しくなる。
「ー」
「はーい、もうご飯できるよー。おもちゃお片付けしてー」
最近では私の名前もわかるようになって。
甚爾さんが私を「繭」って呼ぶから、恵も私のこと名前で呼んじゃってるけど。
ご飯が完成したので恵と一緒にテーブルの上を綺麗にしていると、リビングの扉が開いてあくびをしながら甚爾さんが起きて来た。
「おはようございます、とうじさん」
「ん…」
「おあよーごじゃーまーしゅ」
寝起きで少しぼーっとしている甚爾さんは、いつもの鋭さがなくってかわいい。
甚爾さんもテーブルの前に座ったから、甚爾さんが起きて来なかったら取っておこうと思っていた分も食卓に運ぶ。
3人分の朝ごはんを準備して席に着いた。
「いただきます」
「いたーきまーしゅ」
「…ます」
手を合わせる私と恵の後に続いて、一応いただきますする甚爾さんになんだかほっこりする。
たぶん、まだ頭が働いていないんだろうけど。
ご飯を食べ始めるとだんだんと甚爾さんの目が開いてきた。
「うま…」
「今日はだし巻きにしてみました」
「うま!」
甚爾さんの言葉を真似する恵。
こうやって3人で食卓を囲んでる時間が、私はとても好き。
2人が私の作ったご飯をいっぱい食べてくれると幸せを感じる。
「、おでかけ?」
「うん、スーパー行こうね」
「しゅーぱーいこうねー」
「ねー」
朝ごはんのお片付けが終わって午前中のうちに買い物を済ませてこようと思い恵に上着を着せていると、スポーツ新聞を読んでいたと思ってた甚爾さんと目が合う。
「?」
「…ひまだし、オレも行く」