第7章 萌芽(ほうが)
side 繭
「ん…」
瞼に朝の日差しが柔らかく降り注ぐ。
もう朝…起きて恵の朝ご飯の準備をしないと…。
でもそんな思いとは裏腹に体はもう一度眠りに落ちることを求めていて、いい匂いであったかい…隣にある温もりに本能的に擦り寄る。
あれ…私、恵と一緒に寝たっけ…。
昨日の夜の記憶を振り返りながら、ゆっくりと瞼を開けた。
「………とうじさん…?」
「ん…もう起きたのかよ。」
「どうして…」
「まだ早ぇよ、二度寝しろ」
目の前にはとうじさんのたくましい胸があって、少し上を見上げるとまだ半分瞼の下りてるとうじさんの顔があった。
とうじさんの片腕は私の頭の下にあって、もう一方の手で私の体をぎゅっと引き寄せて、再び眠りに誘おうとしてくる。
「とうじさん…いつ帰って来たんですか?」
「昨日の夜。つかこんなソファで寝るなよ、風邪引くだろ。ベッド使えって言ったろ」
「でも…」
くあ、と大きなあくびをする甚爾さん。
野生の狼か大きいわんちゃんみたい…。
朝起きた時にとうじさんがいるのは、私がここに来てから初めてのこと。
理由はわからないけど、とうじさんは絶対に夜は家に帰って来なかったから。
いつも帰って来た時の甚爾さんからする女の人の匂いや、お酒の匂いでなんとなくどこに行っているのかは想像がついたけれど、甚爾さんは何も言わなかったから、私も何も聞けなかった。
きっと、ここに帰って来たくない理由があるんだと思ったから。
でも、帰って来てくれたんだ。
嬉しくなってとうじさんの胸に甘えるように抱きついた。
「おかえりなさい…」
「タダイマ…オマエあったかいな、子ども体温だからか」
「違います…とうじさんもあったかいですよ…それに、すごくいい匂い」
あったかくて、いい匂いで、夢と現実の狭間みたいな、今にも眠りに落ちる一瞬前みたいな、夢心地な気分。
匂いにつられてとうじさんの首元をくんくん嗅ぐと、「犬かオマエは」って頭の上から笑いを含んだ声が降ってくる。
ああ、ほんとにこのまま寝れそう…ぽかぽかでいい気分…。
だんだんと瞼が重くなる感覚。
夢ならまだ覚めないで……。