第6章 陽だまり
月の光に照らされた繭の白い肌はいつもよりさらに透き通って見える。
触れなくてもわかる柔らかな頬には、涙の跡があった。
ソファの前に膝をついて、涙の跡を拭ってやった。
「ん…」
怖い夢でも見ているのか、眉を寄せた繭が温もりを求めるようにオレの手に擦り寄ってきたから、何とかオレの体が収まるサイズのソファに、繭の体を正面から抱き寄せて寝転んだ。
抱き締めた繭の体は、思ったよりも頼りない。
少しオレが力を込めれば折れてしまいそう。
それでも確かに感じる熱と、コイツ自身の甘くて柔らかい香りを深く吸い込んで、体の奥まで取り込む。
二人の隙間がなくなるように、柔らかい体をきつく抱きしめた。
(あったけ……)
じんわりと伝わる熱。
くっついた胸から伝わる、自分のものではない規則的な鼓動のリズム。
久しぶりに穏やかな気持ちのまま、じわじわと睡魔に襲われる感覚を味わう。
やっぱり、もう手遅れかもしれない。
もうコイツはオレの中で手放すことのできない存在になりかけている。
また同じことを繰り返すかもしれない。
もう一度大切なものを失った時、オレはどうなる?
でももう他の何かでは埋められないくらい、コイツはオレの中の空いた隙間にぴったりハマっちまってる。
(だから嫌だったんだよ…)
何度同じことを考えてもオレの足りない頭じゃ全てがうまくいく答えなんて出るはずがない。
だったら、本能に従うしかない。
オレの体はもう他の女には反応しなかったし、勝手に足が向かう場所はオマエが居るところなんだよ。
自分の本能に従って間違ったことはない。
今までもこれからもきっとそう。
呪力を持たないオレの唯一の生存戦略だから。
「とうじさん…行かないで」
とりあえず、今は腕の中の温もりが勝手に消えないようしっかり抱き締めて、睡魔に身を委ねよう。
目が覚めた時、コイツはどんな反応をしてくれる?
その瞬間を楽しみにしながら、瞼を閉じた。