第6章 陽だまり
また〝何も考えずに眠れる夜〟を失った。
いつもだったら携帯を開いて、今から会える女を探して…って流れだけど、どんな女と会っても同じ結果になることはもうわかってる。
光に導かれる夜光虫のように、ネオンの煌めく繁華街をうろつく。
「お兄さん安くしときますよー、ウチかわいい女の子いっぱいいるから」
「えー!やば、イケメン!一緒にのもーよオニーサン」
「お兄さん彼女とかいるの?いてもいいから楽しいことシて遊ぼ♡」
どんな声も今のオレには自分から遠いところで流れるBGMのようにすり抜けて行く。
ふと、足が止まる。
大通りから一本外れた暗い路地裏。
アイツと出会ったのはここだったな。
何の気まぐれか、オレにしては珍しく人助けなんかしちゃって。
しかも相手はオレの大っ嫌いな呪術師、さらには繭のあのお育ちの良さからして、少なくとも御三家には関わる家柄だろう。
既視感か、違和感か、
もう今となってはわからないけどそういう第六感で感じる何かってのは、オレは外したことないんだよ。
オマエを初めて見た時から、たぶんもう決まってたんだな。
繁華街の喧騒や誘いの声を抜けて、足は無意識に求めるもののある場所へと向いていた。
昼間に後をしたはずの我が家。
まだ日が明けぬうちに帰ってくるのはそれこそ、あいつが死んで以来。
ここで眠ると思い出すんだよ。
オレがまともな人間で、人並みの幸せを掴めるかもって期待してた時の記憶を。
だから、厭なんだ。
鍵を開けて、滑るように廊下を進む。
明かりは消えていて、薄いカーテンから差し込む月の光だけが部屋の中を照らしていた。
リビングの一角にある子ども用のベッドスペースから小さな寝息が聞こえる。
そのすぐそばのソファには恵の方を向いた体勢で繭が寝ていた。
(寝室のベッド使えって言ったろ…)
遠慮がちなコイツのことだから、オレが知らないだけでずっとここで寝ていたんだろう。
もうずっと寝室を使ってなかったから気づかなかった。