第6章 陽だまり
「ねぇご飯まだだったらどこか食べに行く?それとも何か作ろうか?」
「あー…食って来た」
「そうなの?一緒にご飯食べようと思ってたのにぃ」
わざとらしく頬を膨らませて上目遣いでこちらを見上げる女。
なんでだろうな、今までならそういうわかりやすい駆け引きも誘いも多少面倒だと思いながらも乗ってやってたと思うんだけど、どうも気が乗らない。
「じゃあお風呂入る?甚爾が先でも一緒でもいいよ?」
「…後でいいだろ。なあ、今すぐシたい」
「ふふ…いいよ」
中身のない会話とかセックスまでの前戯が全てめんどくさくなって、女の後ろから甘えるように抱きついて耳元で囁くと、満足そうに微笑んで自ら服を脱ぎ始めた。
「嬉しい…甚爾があたしを求めてくれて」
「……」
寝室のベッドに雪崩れ込み、オレの上に跨って自ら下着姿になった女。
男なら確かに唆られるシチュエーションのはずなのに、興奮しないのは何でだ。
相手が求めるものに合わせて〝フリをする〟ことなんてオレには造作もないことだった筈。
相手を好きなフリ、求めてるフリ、お互い一時のことだとわかっていても、その嘘に溺れるのが心地よかった。
「とーじ…どうしたの?」
「わり…オレ今日なんか駄目だわ」
「気分変わっちゃった?…あたしがその気にさせてあげる…」
柔らかい手と唇が身体中をなぞって行く。
男が喜ぶ仕草も経験豊富なテクニックもいつもなら興奮材料になる筈なのに、妙に冷静な頭でそれを眺めている自分がいた。
「ん…とーじ、気持ち良くない…?」
全く反応を示さないオレに、不安そうな顔で覗き込む女。
別にお前が悪い訳じゃないんだけど、無理っぽい。
「…気分変わっちまった、帰るわ。」
「待ってよ!ここまでさせといて何よ!」
プライドを傷つけられた怒りからか、顔を真っ赤にして叫ぶ女。
ヒステリックな金切り声にどんどん自分の中のかすかな熱が冷えて行くのがわかった。
脱ぎかけの洋服を直して、玄関へと向かう。
「とぉじぃ…ごめんなさい…あたしが悪かったから…行かないで、戻って来てぇ…」
寝室から涙交じりの女の声が聞こえたが、玄関のドアを開けて女の部屋を後にした。
背後でオートロックのキーがガチャンと閉まる音が聞こえる。