第6章 陽だまり
感情豊かな繭に影響されてか、あまり泣きも笑いもしなかった恵もよく表情が変化するようになったと思う。
オレと二人だけの時は何かを欲しがったり甘えたりすることもなかったけど、繭にはよくくっついたり何かを要求したりもしているし、それを叶えてくれる相手がいないとヒトってのは何も求めなくなるのかもしれない。
こんな小さなガキでもそういうこと無意識にするもんなのかって、なんだか不思議な感覚になった。
「そうだ、甚爾さんご飯食べました?昨日のお夕飯甚爾さんの分とってありますよ」
「食う」
「じゃああっためますね。はい恵、ちょっと甚爾さんのところに行ってね」
「う〜」
「すぐ戻るからね、いいこいいこ」
胡座をかいたオレの膝の上に恵を乗せてキッチンへ向かおうとする繭に、恵は不服そうな声で唸って、行くなと繭に向かって手を伸ばす。
しかし頭を撫でられてほっぺをつん、とされてしぶしぶオレに頭を預けるように座り直した。
オマエも繭に懐きすぎな。
まだ繭が来てから一週間しか経ってないっつーのに。
「はいどうぞ。昨日は豚のしょうが焼き作ってみたんです。恵もたくさん食べてくれました」
「おーうまそ。いただきます」
「はい、召し上がれ」
机の上に湯気の立つメイン料理と白飯、味噌汁、ちょっとした小鉢が置かれて、膝の上の恵は回収されて行った。
食事にあまり執着がないオレでもわざわざ家に帰ってくるくらい、コイツの作るメシは旨い。
普段コンビニ飯とか外食とか、時折女の作った飯を食うこともあるが、なんかそれとも違ってコイツの料理は温かみを感じるというか…何が違うのかわからねぇけど。
コイツは家で習っていたというが、16歳のしかも箱入りお嬢様が作れるレベルじゃねえ。
「お口にあいますか?」
「美味いよ。オマエほんと料理上手な」
「嬉しい…家でもお料理作るのが一番好きだったんです」
「オレ好みの味。コレもっと食いたい」
「お代わりありますよ!持ってきますね」