第5章 縁(えにし)
無造作にテーブルの上に置かれたお札。
人のお金を使うなんて何だか躊躇してしまう…。
私がちゃんとお金を払えるようになったら絶対に返そう。
「とりあえず…風呂でも入れば。そんなカッコだし」
「あ…」
ところどころ汚れてしまったセーラー服。
必死で逃げていたから、足もおそらく顔も汚れてしまっているかもしれない。
「フロ、こっち。トイレはそこな」
立ち上がって部屋の案内をしてくれるとうじさん。
こうやって後ろから見ると、やっぱりすごく大きい。
お風呂の脱衣所まで来るとくるっと振り返って。
「お嬢様には一般人の風呂は難しいかもな?一緒に入ってやろうか?」
「な…」
にやりと意地の悪い笑み。
またからかわれた…!
「一人で入れます!」
「顔真っ赤にしちゃってかーわいい。ま、何かわかんないことあったら呼べよ。タオルはここな」
ひらりと後ろ手に手を振って脱衣所から出て行く甚爾さん。
大人の男の人なのに意地悪で、人を揶揄ってばっかり…でもどこか寂しそうな雰囲気を持ってる…不思議な人。
信じて…いいのかな。
シャワーを浴びると、体に残ったままの小さな傷が沁みて、この状況が夢じゃ無いんだって教えてくれた。
小さな頃の私の王子様はお兄ちゃんで、ある時からそれは悟になった。
お勉強をしながら悟とお嫁さんになる準備をして、将来はみんなに祝福されて五条家に嫁いで素晴らしい才能を受け継いだ赤ちゃんを産んで幸せに暮らしましたとさ、めでたしめでたし。
っていう期待された筋書きは今日、壊れてしまって。
これからの私の物語はどういう風に変わっていくのかな…。
今の私には知る由もなかった。