第5章 縁(えにし)
これからどうしよう…勢いのまま家を飛び出してしまったから、お金も携帯電話も靴さえも無い。
きっとお母様は〝五条家の花嫁〟としての私を失うわけにはいかないから、今頃必死で探していることだろう。
「帰るとこねーならここにいれば」
「え…」
「ちょうど今こいつの世話見る奴いねーから、世話してくれんならここに居てもいいぞ」
何でもないことのように言い放つ男の人。
こいつって…あの男の子のことだよね。
確かに、追われる身の私からするとここにいてもいいというのはすごくありがたい話だけど…。
「でも私…お金も何も、払えるものを持ってません」
「…何か払いたいっつーなら体で払ってくれてもいいよ?」
「からだで…?」
頑張って働くとか、お家のことをたくさんするとか、そういうこと?
「…意味わかんねーって顔してんな、ほんとどんだけ箱入りなんだか。…オマエ名前は」
「…繭です。」
「オレは伏黒甚爾。まあオレが家空けてる間、死なない程度にこいつの面倒見てやってくれればそれでいいから。行くあてが出来ればいつでも勝手に出ていけよ」
すうすう眠る男の子を指して言う男の人…伏黒さん。
見知らぬ他人を家に置く、なんて。
そんな簡単な話じゃ無いと思うんだけど、伏黒さんは何も気にしていなさそう。
この部屋の感じとか見る限り、男の子をずっと一人でこのお家に置いているのかもしれない。
私の方としても全く知らない人…しかも男の人の家に居させてもらう、なんて考えられないけど。
このお部屋の中でひとりポツンと過ごしている男の子のことを想像すると、なんだか切ない気持ちになってきた。
「…それじゃ、お言葉に甘えてしばらくの間お世話になります、伏黒さん」
「気持ちわりーな、名前で呼べよ」
「とうじ…さん?」
「……」
恐る恐る名前を呼んでみると動きの止まった伏黒…とうじさん?
どうしたんだろう…?
「あの…?」
「…何でもねえ…そこでアホ面で寝てんのは息子の恵」
「恵くん…素敵な名前ですね」
「…そう言ったのは、オマエで二人目」
そう言って顔を背けると立ち上がったとうじさん。
箪笥の中をゴソゴソと漁ると、中から取り出したものをテーブルの上にバサッと置いた。
「コレ使っても大丈夫な金。何か必要なもんあったらこれで買って」