第5章 縁(えにし)
side 繭
胸元の温かさと重みを失って、目が覚めた。
私の癒しとなってくれた男の子の代わりに目の前にいたのは…大きな男の人。
思わず反射的にがばっと上半身を起こして、距離を取るように後ろ手に後ずさる。
お兄ちゃんとは全く雰囲気の違う人なのに、大人の男の人というだけで体がこわばってしまう。
「…心配しなくてもオマエみたいなガキに手ぇ出すほど女に困ってねーよ」
胡座に片肘をついて馬鹿にしたような表情で言い放った男の人。
トレーナーにスウェットパンツというラフな格好の上からでも、鍛えられた肉体を持っていることが見て取れる。
私の家とか悟の家とかでは見たことのないタイプのすごく野生的な感じの男らしさがある人で、整った顔立ちや鋭い目元はどことなくさっきの男の子に似ている。
「そんなに見られたら穴開いちまいそう。オレってそんなに男前?」
「!」
気づかないうちにすごくじーっと見てしまっていたみたい。
揶揄うような男の人の言葉に思わず顔が熱くなる。
「こんなんで照れちゃってウブだな…なんでオマエみたいなヤツがあんな所にいたわけ」
「あんなところ…?」
「やっぱ覚えてねーか。オマエ繁華街のど真ん中の誰も来ねえような路地裏で盛ったサルどもにヤラれる寸前だったぞ」
「…?」
「…とんだお嬢サマだな」
呆れたような表情の男の人。
覚えてないけれど、この人が助けてくれたってことなのかな…?
「オマエ、術師の家系か?」
「!!」
「意識失ってたのは呪力切れだろ。どんなことしたらあの状態になんだよ」
「…貴方、誰ですか」
「そんな毛逆立てたネコみたいに警戒すんなって…オレに呪力が1ミリもないのはわかんだろ。関係者じゃねえよ」
「……」
確かに、この男の人が言う通り、この人には呪力が全くない。
〝関係者じゃない〟というのは嘘じゃないかもしれない…かといってただの一般人というには、あまりにも気配が鋭過ぎる気がするけど…。
「…まあ言いたくねえなら言わなくていいけど、オマエ帰るあてあんの」
「……」
もう、あの家には帰れない。いや、帰りたくない。
家のこととか、家族のこととか今は全てが嫌になっていた。