第5章 縁(えにし)
恵を見ればそこにはあいつの面影を感じて、あいつの遺品は親族とかいう奴らが全部引き取っていったから何も残ってないが、特に一人でこの部屋にいるとさまざまな記憶が蘇って来るから、恵の世話を任せるためにも女を連れ込んだり、逆に女の家に行ったりして、あまり帰ってこないようになった。
〝禪院家に非んば呪術師に非ず。
呪術師に非んば人に非ず。〟
その教えを骨の髄から叩き込まれて、自分は人以下の存在だと身に沁みたはずなのに。
そんなオレが人並みの生活を手に入れようとしたからか、思い知らされた。
失ってはいけない存在を作ることの愚かさを。
期待しては裏切られて、何度も何度も繰り返してきたはずなのに、人間ってのは本当に愚かだ。
だから…もう、いい。
恵を禪院家に売り渡す約束は取り付けた。
コイツはオレと違って〝持つ者〟だから、相伝の術式があってもなくてもオレよりましな生活が送れるだろう。
術式の有無がわかる歳まで適当に育てたら、あとは……。
「ん…」
恵の寝顔をぼーっと見ながら考えに耽っていると、少女がもぞりと動いた。
2歳っていってもそれなりに重みがあるガキを乗せたままだと寝苦しいのだろう。
少女の胸にしがみつく恵の首根っこを掴んで持ち上げ、コイツの元の寝床に置く。
急に胸元の重みがなくなったことで異変に気付いたのか、長いまつ毛がふるふると震えて、ゆっくりと瞼が開いた。