第5章 縁(えにし)
(ここは…?)
自分が今いる場所を見渡した。
薄いカーテン越しの外を見ると、時間は夜みたい。
どこかの一室だろうか、電気のついていない薄暗い部屋の中はキッチンとダイニングとリビングが一緒くたになっていて、私の部屋よりも手狭だ。
キッチンのシンクには汚れた食器が積み重なっていて、リビングの真ん中にある背の低い机の上にはインスタント食品のゴミがたくさん。
衣服やこの子のおもちゃと思しきものが、床に無造作に散らばっている。
「あぅあ〜」
辺りを見回していると、足元から可愛らしい声が聞こえて、そちらを見ると男の子が不思議そうに私を見上げていた。
しゃがみ込んで、同じ視線になってみる。
「なんでここにいるの?って感じだよね…わたしも知りたい。ここは…ぼくのお家なのかな?」
「う〜?」
私が首を傾げると、同じ方向に首を傾げる男の子。
可愛らしくて、状況も忘れて思わず笑顔になってしまう。
男の子は口をぽかんと開けたまま、私の顔をじーっと見ていた。
「あはは、かわいいね。…ぼくに聞いてもわかんないよね…困ったなあ」
「あっこ!」
んっ!と短い両手を私に向かって広げる男の子。
抱っこ…ってことなのかな?
小さい子を抱っこするなんて初めてで落としたら怖いから、正座の体勢でそーっと慎重に抱きしめてみた。
(うわあ…ちっちゃい…。)
これが子どもの匂いってやつなのかな?
柔らかくて、なんか安心する匂い。
子ども特有の高い体温も、冷えていた体を温めてくれる。
ここがどこかも、この子が誰かもわからないのに、なんか…すごくこの子に癒されちゃってる、わたし。
ちっちゃいぼくは私の膝の上に乗ってぎゅっと抱きついてきて、胸元に顔をすりすりしている。
「まんま…」
「ママを探してるの?ママ、お出かけしてるのかな…」
抱きついたまま動かない男の子の頭をポンポンしたり、背中を撫でてあげていると、モゾモゾしてたのがいつの間にか動かなくなって、膝の上の重みが増した。
寝ちゃったみたい…。