第5章 縁(えにし)
side 繭
ずっと、暗闇の中にいた。
火照った顔と頭は熱を持ってるのに、冷たい風が吹きつける体は凍えそうに寒い。
おそらく折れたであろう脚を治療するため、常時発動させ続けた反転術式のせいで呪力は焼き切れてオーバーヒート状態。
(逃げなくちゃ…誰にも見つからないよう…)
ちゃんと、捕まらないように呪力の痕跡を消すことを忘れないで。
自分に言い聞かす。
(でも…どこへ逃げたらいいの?)
いつまで走り続ければ、誰も私のことを知らないところまで辿り着ける?
前を向いても、後ろを振り返っても真っ暗で何も見えない。
足を止めたら、まとわりつく暗闇の中に引き込まれそうで、必死で脚を動かし続けた。
(お願い、誰か助けて……)
「まんま」
柔らかい何かが頬に触れた感覚で意識が浮上した。
重い瞼をゆっくり持ち上げると、目の前にこちらを覗き込むような人の形のシルエットが、ぼんやりと見える。
ぱちぱちと何度か瞬きを繰り返すとだんだんその姿がはっきりしてきて。
「子ども……?」
「ぁー」
白くぷくっとしたほっぺがかわいい、つんつんした髪の毛の…男の子だよね?
その子が小さな紅葉みたいなぷくぷくの手でわたしの顔に触れていた。
なんだか突拍子もない状況すぎて、夢か現実か一瞬頭が混乱した。
「いた……」
体に力を入れて起き上がると、酷使した全身の筋肉がぎしぎしと悲鳴を上げた。
呪力が続く限り体の損傷を治癒させながら走り続けたから、いつの間にか呪力がゼロになって意識を失ってしまったらしい。
意識を失う直前は、すごく寒くてすごく暗かった感覚があるけど…。