第4章 邂逅(かいこう)
「御当主様、どうしてこちらに…」
「繭は?」
「…あの子は少し体調を崩して寝込んでおりまして」
「携帯も見れないぐらい悪いのか?…繭の部屋は?」
「いけません、御当主様の御体に差し障りが出ては…」
「教えるつもりがないならいい。勝手に探すから」
「お待ちください!」
俺に遜(へりくだ)りながらも何かを隠そうとする繭の母親の制止を振り切って、家の中にずかずかと上がる。
俺の機嫌を損ねないようにと必要以上にチヤホヤしてくる繭の家族が面倒臭くて、今まで繭の実家に上がったことはなかったが、六眼を使えば繭の部屋を探し当てることなど造作もない。
繭の呪力の痕跡を辿って、ある部屋の扉を開ける。
「お前だれ?ここ、繭の部屋だろ」
「御当主様…」
どこか繭に似た顔立ちで、俺よりも少し年上だと思しき青年が繭の部屋にいた。
部屋の主人である繭の姿は見当たらない。
「私は…繭の兄で●●と申します」
頭を下げる繭の兄。
そういえば兄がいるとか言ってたような気がしなくもない。
繭も俺も自分の家のことについてはいろいろ思うところがあって、二人ともなんとなくそれは察していたから、あまりお互いの家族の話題については触れてこなかった。
「繭は?具合悪いって聞いたんだけどいねえの?」
「あの子は…」
口籠る繭の兄。
それ以上口を開かない様子と先ほどの母親の態度から、繭に関する何かがあったことは間違いなさそうだ。
繭の部屋を見渡す。
白を基調とした、女の子らしい可愛いデザインの家具で揃えられたらしい部屋だ。
お姫様のような天蓋付きのベッドの上には、唯一この空間に少しそぐわない年季の入った黒い犬のぬいぐるみが置かれている。
机の上には昨日オレが繭に渡したプレゼントの紙袋が、手付かずのまま置いてあった。
その横には不在着信と未読メッセージを知らせる、繭の携帯電話もある。
マメで礼儀にはきっちりとしたアイツからは考えられない状況だ。
(おかしい…アイツに何かあったとしか考えられない)