第4章 邂逅(かいこう)
あの少女がどうなろうと知ったことではない。
そう思って路地裏を横目に通り過ぎようとした時、伏せられていた少女の顔が一瞬目に入った。
オレはコイツを知っているーーーー。
言いようのない既視感。
一瞬、過去に引き戻される感覚。
(なんだ…?この感じ…)
記憶を辿っても探り当てられない気持ち悪さ。
気がついたら少女の元に向かって、勝手に足が動いていた。
「おい」
少女を取り囲んだギラギラした目の男たちが、警戒した様子でオレを見る。
「それ、オレの連れ。面倒かけたな」
大学生ぐらいの年頃だろう。
髪や洋服に金をかけてそうな頭の悪そうなガキが3人。
オレの肩よりもちっこくて、ちょっとこずいたら吹っ飛びそうな薄い体。
「あ!?テメェ誰だよ」
「オイやめろって、相手見るからにヤバそうじゃん」
「怖気付いてんじゃねぇよダセェな」
有象無象。烏合の衆。
そんな言葉がぴったりの奴ら。
よく吠える弱い犬、ハナから逃げ腰の奴に、虚勢だけで何とか踏みとどまっている奴。
意気込んでも、無意識に足先はすでに逃げる方向を向いてしまっている。
それでも意地なのか、少女の腕を掴んだままのガキの手首をとって少し力を入れてやると、汚い叫び声をあげた。
「折れた!これ絶対折れた!」
「今ので折れるかよ、テメェ大げさなんだよ」
「だからヤベェって!行くぞ!」
バタバタと無様に逃げ出して行く負け犬ども。
掴まれた腕を解放された少女は、逃げるでもなく俯いたままその場に座り込んでいる。
「おい」
反応はない。
マジでヤバい薬関係じゃねえだろうな。そういう面倒事はごめんだ。
肩を掴んで揺すってみる。
と、その勢いのまま少女は正面にしゃがむオレの方に倒れかかってきた。
ふわ…と柔らかい髪が鼻をくすぐり、甘い香りを感じたと思ったら、胸にわずかな重みの感覚。
「…完全に意識ねぇな」
呪力切れだ。
先ほど少女から感じた既視感は、おそらく以前同じような呪力を感じたことがあったのだろう。
なぜか今は呪力が枯渇してるけど、コイツはおそらく術師だ。
既視感を感じた呪力ということから導き出すと、禅院家の関係者かもしれない。