第3章 壊れた世界
なんだか恥ずかしい気持ちもあって、お母様にはこそっと伝えたのに、
「おめでとう!これで繭も立派な女性になったってことね!今日は誕生日と二つもお祝い事があっておめでたいわね」
とすごく喜ぶものだから、たぶんお父様とお兄ちゃんにもバレてしまったと思う。
お母様はすぐにお赤飯も準備するわねと言ってさらにバタバタとご飯の準備を進めて。
お父様はちょっと気まずそうに「ご飯の準備が終わるまでゆっくりしてなさい」と気遣ってくれたけど、なんだかお兄ちゃんの方を見ることができなかった。
前にお風呂の時にお兄ちゃんが「もうすぐで大人の女性になる準備ができるよ」って言っていたことを思い出してしまった。
それから、お母様はいつもの誕生日以上に張り切ってご馳走を用意してくれて、私よりもお母様の方が喜んでいるようだった。
「本家にも連絡しなくちゃね。繭はいつでもご当主様のお嫁さんになれますって」
「え…」
「お母様言わなかったけど、ずっと心配してたのよ。もう年頃なのに…繭はだいぶ遅かったから、もし繭の体に何か病気でもあったら本家にもご迷惑がかかるしね。」
お母様は、わたしのことを心配してくれてたわけじゃなかったんだ。
わたしが〝悟のお嫁さん〟にちゃんとなれるかが心配だっただけで。
わたしが大人の女の人になれたことを喜んでくれたわけじゃなかったんだ。
そう思うと、なんだか気持ちが重くなってしまって、美味しかったご飯もあまり味がわからなくなってしまった。
「…ご馳走様でした。」
「あら、もう食べないの?繭」
「うん…ちょっとお腹が痛いから、早めに休むね。…お母様、美味しかった、ありがとう」
「心配ね、ちゃんとあったかくして休むのよ」
「はい…」
箸を置いて自分の部屋に向かう途中、なんだか涙が滲んできた。
部屋に入って机の上を見ると、悟からのプレゼントが目に入る。
なぜかすごく心細い気持ちになって、プレゼントの紙袋をぎゅっと抱き締めた。
「悟…」
涙が一粒落ちて紙袋に吸い込まれていった。