第3章 壊れた世界
「お帰り、繭」
悟のお家の車で家まで送ってもらって玄関をくぐると、ちょうどお兄ちゃんがいた。
「ただいま、お兄ちゃん」
「…御当主様と会ってたの?」
「うん…」
お兄ちゃんとは、前のあのお風呂での出来事があってから、ちょっと距離ができてしまったように思う。
お父様とお母様がいる前では普通にできるんだけど、二人きりになるとちょっと緊張してしまう。
お兄ちゃんの視線から逃げるように思わず、悟からもらったプレゼントの入った袋をぎゅっと抱きしめた。
「それ、どうしたの?」
「あ…えっと、誕生日プレゼント。悟がくれたの…」
「そう…よかったね。今日は繭の誕生日だからご馳走だって、お母様が準備してるから荷物を早く置いてきたら」
「うん…」
お兄ちゃんがダイニングに向かって行くと、無意識に緊張していた肩から力が抜けた。
自分の部屋に入り、悟からのプレゼントを机の上に置いた。
プレゼントはゆっくり開けたいから、ご飯を食べ終わった後に見よう。
着替え終わると、ちょっとお腹が気持ち悪い感じがしたから、ご飯の前にお手洗いに行った。
今日はご馳走なのに、またあの気持ち悪い感じ…嫌だな。
「え…」
下着を下ろすとショーツに真っ赤な血がついていた。
一瞬その血にどきりと心臓が脈打ったけど、そういえば学校で習っていた。
女の人の体は赤ちゃんを産む準備ができたら〝生理〟ってものがくるってこと。
15歳になると周りのクラスメイトはもう〝生理〟が来ている子が多くて、周りの友達からも繭はまだなんだって言われたり、お母様も「あんまり遅いと心配ね。赤ちゃんを産むのに何かあるといけないから…16歳になってもまだだったら一度病院で診てもらいましょう」って言っていて。
でも、そうなんだ、わたしはもう大人の女の人になったってことなんだ。
クラスメイトの女の子たちの仲間入りができて誇らしいような、なんだか気恥ずかしいような、へんな気持ち。
ちょっとびっくりしたけど、大人の女の人になるって喜ぶべきことなんだよね?
学校で習った生理の時の対処をしてから、ダイニングで忙しなくご馳走の準備をするお母様にこそっと、生理が来た事を打ち明けた。