第2章 罅(ひび)※
「ただいま帰りました」
家に帰ってからは、いつも通り呪術の勉強をして、〝花嫁修行〟として母に倣って家の事を手伝ったりする。
以前、悟にそれを話したら
「家のことなんか使用人がやるから、お前がそんなことする必要ねーよ」
と言っていたけど、実は呪術の勉強よりもお料理を作ったりする方が好き。
食べてくれる人の嬉しそうな顔を見るのが好きだから。
母も父もお兄ちゃんも褒めてくれて、みんなで一緒に食卓を囲む時間が好きだった。
「おいしい。繭はすごく料理が上達したね」
「そうでしょう、きっと悟様も喜んでくださる。いいお嫁さんになれるわね」
「お兄ちゃんは繭のご飯を毎日食べたいから、お嫁さんにならないでほしいぐらい」
「何冗談言ってるの、●●は」
お兄ちゃんは呪力がないから術師にはなれなかったけど、家の管理をしたり、催事の時は五条家のお手伝いなんかをしている。
6歳の時、父や母はわたしが五条家のお嫁さんになる事をすごく喜んだけど、お兄ちゃんだけは何も言わなかった事を覚えてる。
はっきり聞いたことはないけど、きっとお兄ちゃんは呪術師とかお家のこととか、そういうことはあまり好きじゃないんだと思う。
でもそれを口に出して言うことは両親が許さなかったのだと思う。
私にとっては、小さい頃から優しくて面倒見のいい大好きなお兄ちゃん。
あの時までは、そう思っていた。
なんだか最近、体がだるい。
お腹が気持ち悪い感じがして、あまりご飯も食べたくない。
みんなが美味しい美味しいって食べてくれたご飯も、半分くらい残してしまった。
家族はみんな心配して、早く寝なさいと言ってくれたから、いつもより早めにお風呂に入って寝ることにした。
「繭、どこか体調でも悪いの?」
自分の部屋へ戻る途中、心配そうな顔をしたお兄ちゃんが声をかけてくれた。
「お兄ちゃん…なんか少し前からお腹が気持ち悪くって、変な感じなの…」
「…可哀想に。ゆっくりお風呂に浸かって体をあっためた方がいいね。…そうだ、久しぶりにお兄ちゃんと一緒にお風呂に入ろうか」
「え…」