第2章 罅(ひび)※
side 繭
15歳になった私は、母が「世間のことを知るため」と入れてくれた普通の女子中学校で、呪術を知らない子たちに囲まれて、学生生活を楽しんでいた。
それまでずっと家で呪術のことや〝許嫁としての勉強〟だけしかしてこず、世間のことは何も知らなかったけど、私の入った中学校はいわゆる〝お嬢様学校〟で、良家のご息女ばかりだったから、それほど違和感なく溶け込むことができた。
6歳で悟と出会ってから、初めは一悶着あったものの本家と分家といった垣根を越えて仲良くなったと思う。
正直まだ恋もしたことのないわたしには、〝許嫁〟という関係があまりピンとこなくて、初めてできた男の子のともだちという認識だったのだけれど。
一度、悟が放課後私の学校まで迎えに来たことがあって、その時のクラスメイトの女の子たちの騒ぎようにはびっくりした。
悟は初めて会った時からとても綺麗でとても特別な男の子だと思っていたけれど、それは他の女の子たちから見ても明らかなようで。
私の許嫁ということがわかったとたん、クラスメイトたちからは羨ましいと何度も言われたものだ。
中学生になって、同級生の女の子たちと過ごす中で分かったことはみんな恋の話が大好きだということ。
他の中学校に好きな男の子がいるとか、だれだれ先生がかっこいいとか、好きな男の子のタイプはとか、みんなすごく楽しそうに話していた。
でもわたしはみんなが楽しそうに話してるのを聞くのは好きだったけど、誰かを好きになった経験がないから他の子みたいに自分から話題を提供することはできなかった。
ただただ小さい頃から「繭は悟様のお嫁さんになるのよ。たくさんお勉強して悟様にふさわしい女の子にならなきゃね」と母に言い聞かせられてたから、特別何の疑問も持たず、悟の花嫁としての準備を続けていた。
私も悟も来年16歳になったら呪術高専に入学する予定だ。
だから、恋の話が大好きなクラスメイトたちとも今年いっぱいでお別れで。
ふわふわしたぬるま湯みたいなこの空気の中にいれるのもあと少しかと思うと、ちょっぴりさびしく感じた。