第2章 罅(ひび)※
「ご当主様!娘が大変失礼な態度をとって申し訳ございません!このようなことがないようあの子にはきつく言い聞かせますので…」
これ以上ないくらい深い土下座をして俺に詫びるあいつの母親。
いや、どっちかっていうと失礼なのは俺の方だったけど。
「恥ずかしながら世間知らずな子で、あまり人に慣れておらず…ですがうちの家系では●●年ぶりの反転術式持ちで、将来ご当主様のお力になれるよう、呪力の訓練も許嫁としての躾もこれからしっかりと…」
「分家が出しゃばるな!」
必死で弁明する母親に、俺の世話役がぴしゃりと言い放つ。
「選ぶのは五条家だ。分家は黙っていろ。
…悟様、気に入らなければ代わりの許嫁候補はいくらでもいます。もっと悟様のお気に召すような…」
「あいつでいい」
世話役の言葉を遮る。
「ありがとうございます!ご当主様…」
「よいのですか?あのような躾のなっていない娘で」
「いい。俺が…気に入ったんだよ」
頭を畳に擦り付けて感謝する母親。
お前のためじゃねーけど。
もう一度お前に会ってみたいって、
あの笑顔を見せてほしいって、そう思ったんだよ。