第11章 再会
side 繭
目の前の光景が信じられなかった。
信じたくなかった。
何度瞬きをしても変わることのない視界は、残酷にもこれが現実だとわたしに容赦なく突きつけてくる。
目の前には、左半身を大きく抉られた甚爾さんが立っていた。
その足元には左腕が転がっている。
脳があまりの衝撃にわたしの意識をシャットダウンしようとしてるのだろう、だんだんと視界が暗くなり、手と足は冷えて力が抜けていき、周りの音が遠ざかっていく感覚がした。
このまま暗闇に身を委ねてしまいたい。
目が開けたら全て悪い夢だったって、そんな甘い夢を見たい。
わたしの中でふたつの感情がせめぎ合う。
でも………。
唇を強く噛んだ。
痛みで現実世界に意識が呼び戻される。
甘い夢はもう捨てなくちゃ。
わたしはもう、ただ守られてるだけのお姫様じゃいられないんだから。
自分の手で大切なものを守るんだって、そう決めたんだから。
それでも、目の前の甚爾さんを直視すると心が壊れてしまいそう。
勝手に溢れる涙は頬を伝って、抑えきれない嗚咽が喉の奥からせりあがってくるのを歯を食いしばって耐える。
泣いてばっかりいないで、
ちゃんと見るの。
わたしが今できることを考えるの。
何もできない自分でいたら、これから先わたしはわたしを許せない。
涙で滲む視界を拭った。
甚爾さんの円状に抉られた傷痕からは未だ血が滴って、足元に大きな血溜まりを広げ続けている。
覚束無い足取りで近づき、その血溜まりの中にパシャリと足を踏み入れて甚爾さんに震える指先を伸ばした。
怖い…甚爾さんに触れるのが。
わたしの記憶の中の甚爾さんの感覚はまだ鮮明に残ってるのに。
冷たい。
もう心臓が止まってからしばらく経つんだ。
死後硬直は始まってないけど、血を大量に失い過ぎてる。
記憶の中の甚爾さんとかけ離れた今の姿に、恐怖とか悲しさとかいろんな感情が溢れてきて飲み込まれそうになるのを必死で堪える。
震える手で冷たい甚爾さんの胸に触れて、自分の呪力を流し込んだ。