【R18】禪院直哉→私←五条悟❇︎傷だらけの婚約者❇︎
第12章 五条悟⑤
ななは周りを見渡した。
直毘人は勿論、そこにいる人全員が、さっさと出て行けと目で言っていた。
ずっと禪院家に居る時に浴びせられていた視線だった。
『なな、コレやる。』
そう言って、雨蛙を渡してきた幼い頃の直哉を思い出した。
雨蛙は苦手だった。
何故苦手と言っているモノを直哉が渡そうとするのか不思議だった。
でも今だったら、直哉のその行動の意味がはっきりと分かる。
さっきまでは大丈夫だったのに、ななの目から涙が溢れた。
雨蛙を誇らしげに渡してきた直哉の笑顔の意味は。
禪院家で居ない様に扱われる末端の親戚の女の子を笑顔にしたい。
それだけの気持ちだったんだ。
直哉に無理矢理禪院家に連れて来られて、閉じ込められたから縋っていたんじゃ無い。
無邪気に雨蛙を渡してきたあの男の子の笑顔が好きだった。
苦手だった雨蛙を受け入れたのは、それを渡した直哉の笑顔が見たかったからだ。
本当はずっと前から、直哉が好きだった。