十年・愛 〜あの場所で、もう一度君と…〜【気象系BL】
第5章 5
営業時間を過ぎ、店内の客も全て捌けたところで、僕は漸く一息をつく。
「なんか今日めちゃくちゃ忙しかったね」
ほぼ空になったスープの寸胴を前に、ほうしんした状態で立ち尽くす雅紀さんに声をかけるけど、よっぽど疲れたのか、反応はない。
元々忙しい店だってことは分かってたから、そう珍しいことでもないんだろうけど、今日は特別忙しかった。
だから雅紀さんの魂が半分抜けかけなのも無理はない。
僕はカウンターに残された食器類を集め、シンクに突っ込むと、順番に洗浄機の中へと送り込んだ。
その間に、放心していた雅紀さんも何とか気を取り戻し、翌日のための仕込みを始めた。
いつもおちゃらけてる雅紀さんだけど、包丁を握る姿は、きっと誰にも負けないくらいかっこいい。
「ねぇ、雅紀さん?」
「ん、何なに?」
「雅紀さんと付き合ってる時の潤さんて、どんな感じだったの?」
あまり過去のことに囚われたくないし、そこまで気になるわけでもないけど、今後のために…と思って聞いてみた。
「うーん、可愛かったかな」
「え…、潤…さんが?」
嘘でしょ?
だって僕の目には、とてもじゃないけど可愛くは見えない。
ドラァグクイーン状態の時だって、美人だとは思うけど、可愛いとは違う。
僕は雅紀の言葉が信じられなくて、首を何度も傾げた。