十年・愛 〜あの場所で、もう一度君と…〜【気象系BL】
第5章 5
一瞬、キスされるのかと思った。
でも潤さんは顔をフッと背けると、少しだけ緊張して顔をして、スーッと息を吸い込んだ。
「潤…さん?」
僕が顔を覗き込むと、潤さんは今まで見せたことのない、何とも言えない表情をしていて…
「あの…さ、もう待たなくて良いんだよな?」
「え?」
言ってることの意味が分からなくて、僕は首を傾げた。
すると潤さんは、吸い込んだ息を全て吐き出す勢いで…
「お前が待っていた人は、お前を待つことなく別の人を選んだんだ。だからお前ももう待つ必要はないよな?」
一気に捲し立てた。
「それ…は…」
正直、あの写真に添えられた〝Marriage〟の文字を見た瞬間から、僕自身分かっていたことではあった。
でも実際言葉にされると、なんだろ…
辛くて、苦しくて、胸が痛いよ。
「俺にしとけよ。俺なら、絶対お前を悲しませないから。だから…」
潤さんの目から、静かに涙が流れ、頬を伝った。
初めてだった。
潤さんと知り合ってから、もう一年以上経つけど、潤さんの涙を見たのはこれが初めてだった。
そして、それ程…涙を流す程、僕のことを好きでいてくれていたことを、改めて知った。
そっか…、僕が翔くんの帰りを待っている時間、この人も僕の心が変わるのを、ずっと待っていたんだ。
そう思ったら、一度は乾いた筈の僕の目が、再び濡れるのを感じた。