十年・愛 〜あの場所で、もう一度君と…〜【気象系BL】
第5章 5
漸く涙も止まり、落ち着きを取り戻して来た頃、潤さんが僕の手からマグカップを取り上げ、腰を上げた。
「ココア、作り直して来るから」って。
別にさ、元々僕は猫舌で熱い物が苦手だから、ちょっとくらい冷めてたって全然平気だし、寧ろ冷たいくらいでま丁度良いのにね。
新しいココアを潤さんから受け取り、フーッと息を何度か吹きかけてから、僕は漸くカップに口を付けた。
「…美味しい」
ココアの甘さが口に広がって、ついでにいくつもの棘が刺さったみたいな胸の痛みを、少しずつ和らげて行くような、そんな気がした。
「仕事…でしたよね」
「まあね」
潤さんは趣味でドラァグクイーンをしてるけど、実は自身で立ち上げたアパレルメーカーの社長でもある。
だから、仕事かそうでないかは、服装を見れば大体分かる。
「ごめんなさい。突然押しかけちゃって」
「別に良いよ。寧ろ、俺を頼ってくれて嬉しかったかな」
「え…?」
僕が首を傾げると、潤さんはちょっとだけ苦笑いをした。
「雅紀さんから聞いてるんですよ…ね?」
「ざっくりと…だけどね。だってアイツ、滅茶苦茶焦っててさ、何言ってんだか全然分かんなくてさ…」
「そう…なんだ?」
雅紀さんに心配かけてしまったことを、僕は申し訳なく感じて、思わず下を向いてしまうと、潤さんの手が僕の顔を持ち上げた。