十年・愛 〜あの場所で、もう一度君と…〜【気象系BL】
第3章 3
両手を合わせ、静かに目を閉じると、父ちゃんとの記憶がいくつも浮かんできて…
走馬灯って良く言うけど、これがそうなんだろうか?
僕はぼんやり考えながら、ゆっくり瞼を持ち上げた。
すると、母ちゃんが鼻をズッと啜ってから、祭壇の上に置かれた父ちゃんの写真に目を向けた。
「ごめんね、アンタが入院してる間に全部済ませちゃって…」
「ううん。それよりさ、写真、もうちょっとマシなの無かったの?」
母ちゃんの視線を追って見上げた写真には、いかにも時代遅れなパンチパーマの、仏頂面した父ちゃんが写っている。
「だ、だって仕方ないでしょ? 父ちゃんの写真なんて、これくらいしかないんだから。それに、余りにも急だったし…」
そう…だよね、こんなことになるなんて、誰も想像してなかったもんね。
勿論、この僕も…
「それよりさ、僕お腹空いちゃった…」
「朝ご飯、ちゃんと食べて来たんでしょ?」
「うん。でもお腹空いたんだもん」
「お茶漬けくらいしか出来ないけど…。ちょっと待ってなさい」
母ちゃんが僕を残して部屋を出て行く。
本当はさ、お腹なんて全然空いてないし、食欲なんてどこからま湧いて来やしない。
でも、父ちゃんの写真を見つめる母ちゃんの顔が、凄く寂しそうだったから…