十年・愛 〜あの場所で、もう一度君と…〜【気象系BL】
第1章 1
僕が門を閉めたタイミングで、翔くんが運転席から降り、助手席のドアを開けてくれる。
面倒臭そうに見えるのはいつものこと。
実は照れ隠しなんだってことを、僕はちゃんと知ってる。
だから、いつもなら「ありがとう」って言えるのに、今日はそれどころじゃない。
少しだけ寒さを感じる手首を、翔くんに気付かれたくなくて、セーターの袖を目いっぱい伸ばして指で摘んだ。
「どうしたの、早く乗りなよ。時間遅れるでしょ」
「あ、う、うん…」
翔くんにそっと背中を押され、助手席に乗り込もうとしたその時、「さーとし」って聞き覚えのある声に呼び止められた。
二宮和也こと〝ニノ〟だ。
後から思ったことだけど、この時ニノの呼びかけに応えなきゃ良かったんだ。
そしたら、ブレスレットを失くしてしまったことに対する後ろめたさは感じながらも、翔くんとのデートを楽しめた筈だった。
でも僕は車内に突っ込んだ片足を引き戻し、背中からかけられるニノの声に振り返ってしまった。
瞬間、僕の視界に飛び込んで来たのは、ニノの笑顔でもなく、ましてや周りの景色でもない、ニノの手首でキラキラと光る赤い石で飾られた〝S〟の文字だった。
目の前が真っ暗になって、セーターの袖を摘んだ指が微かに震えた。