十年・愛 〜あの場所で、もう一度君と…〜【気象系BL】
第3章 3
『しっかり…!』
誰かが僕の耳元で叫ぶ。
けど、その声が凄く遠く感じて…
僕は周囲を見回そうとするけど、身体が痛くて思うように動かせない。
ただ、何人かの人が慌ただしく動き回ってるのは分かるし、やたらと赤い光がチラつく。
変だな…
空港まで後数キロって看板見なかったっけ?
だから、もうとっくに空港に着いてて、翔くんと飛行機乗ってる筈なんだけど…
あ、翔くんにちょっと遅れるって連絡しなきゃ。
きっと翔くん心配してるもん。
僕はスマホを取り出そうとポケットに手を伸ばそうとするけど、やっぱり身体が言うことを聞いてくれなくて…
「翔…くん…」
大好きな人の名前を口にした瞬間、僕の目からは涙が零れ、同時に視界が真っ暗になった。
目が覚めると、そこは白い壁に囲まれた部屋で、ブラインドの隙間から差し込む日差しは、とても柔らかだった。
そして、そこには…
「え…、何…で?」
いる筈のない人がいて…
その人は酷く泣き腫らしたような顔をしていて…
「ねぇ…、翔…くんは?」
まるで自分の物とは思えない、掠れた声で聞いてみるけど、その人は答えてくれなくて、代わりに大粒の涙をいくつか、しっかり握った僕の手の甲に落とした。
「ぼ、僕、行かなきゃ…」
翔くんが待ってるから…
そう思って僕は無理やり身体を起こそうとするけど、身体の痛みがそれを許さなかった。