十年・愛 〜あの場所で、もう一度君と…〜【気象系BL】
第11章 11
「昔ね、付き合ってた人に、ここに連れて来て貰ったことがあってさ…」
僕は十年前と殆ど変わりのない景色を見渡した。
「その人とは、もう?」
普段は遠慮なんて全く知らないって感じのジェシーが、珍しく遠慮がちに言うから、なんだが可笑しくって…
「ずっと会ってないよ。それに…」
僕は空になったペットボトルをクシャリと潰すと、意味も無く空を見上げた。
「それに…、何?」
ジェシーが僕に続きを求めるけど、僕は緩く首を振って応えただけで、エプロンのポケットから取り出したキャップを被り、ベンチから腰を上げた。
答えなかったんじゃない。
本当は、〝答えられなかった〟んだ。
あれから十年が過ぎた今でも、僕の知らない誰かと、幸せそうに笑う翔くんを思い出すと、胸が締め付けられそうに苦しくなるから。
自分でも大概女々しいとは思うけどさ…
「さ、そろそろパンが焼ける頃だ」
僕は身体を思い切り伸ばすと、焼きたてのパンの匂いに導かれるまま、キッチンカーに乗り込んだ。
オーブンを開け、パンを載せたプレートをゆっくり引き出す。
この瞬間だけは、何度経験してもドキドキしてしまう。
よし、焼き加減は完璧だ。
後は…
「ジェシー、味見してくれる?」
「OK🎶」
焼き上がったばかりのパンを、ジェシーが半分に割って、片方を口に放り込んだ。