十年・愛 〜あの場所で、もう一度君と…〜【気象系BL】
第10章 10
潤さんに背中を押され、店の中に入ると、パン屋さん特有の香ばしくて、でもちょっぴり甘い匂いに、僕の鼻とお腹が刺激される。
これこれ、この匂いが好きなんだよな…
でも僕が好きなのは匂いだけじゃない。
「あんたかい、ウチで働きたいってのは」
二代目社長の麦田さんの存在だ。
ちょっぴり乱暴だし、とてもパン屋さんって雰囲気でもないんだけど、パン作りに熱心で、繊細で…
僕はムギタのパンは勿論好きだけど、麦田社長にも憧れていた。
だからもし僕が自分の店を持つとしたら、ムギタみたいな店が良いってずっと思っていた。
僕は麦田社長に、ずっと胸の奥に秘めていた思いの丈…ってゆうの?
そんなのを全部ぶつけた。
麦田社長は、僕が潤さんの知り合いってこともあるんだろうけど、凄く熱心に僕の話に耳を傾けてくれて…
結果、その場で〝採用〟の一言を貰うことが出来た。
嬉しかった。
勿論僕一人の力じゃないし、潤さんのおかげの方が大きいのかもしれないけど、僕がずっと思い描いて来た夢に、ほんのちょっとだけど近付けたことが、凄く嬉しかった。
だって、これまで僕が歩んで来た道は、いっつも誰かが作ってくれた道で、僕が自分で…なんてこと、一度もなかったから。