十年・愛 〜あの場所で、もう一度君と…〜【気象系BL】
第10章 10
「緊張してる?」
コインパーキングに車を停め、目的の店まで歩く道すがら、潤さんがぽつり言う。
「緊張…は特にしてないけど、ちょっとだけドキドキしてるかも」
僕が答えると、潤さんはぷっと吹き出して、僕の肩にそっと腕を回した。
「あのなあ、そういうのを〝緊張〟って言うんだよ」
「そうなの?」
僕はてっきり緊張とドキドキは別物だと思ってたけど、そっか…これって緊張してるんだ?
「やっぱ面白いな、智は」
「そう?」
僕は自分のこと、面白いなんて思ったことないけど?
「でも驚いたな…」
「何が?」
「だって智がパン屋になりたかったなんて…、意外だった」
「そう…かな?」
確かに、僕がパン好きなのってあまり言ったことないし、料理とかもしないから、意外…と言えばそうなのかもね。
「俺はてっきり智はイラストレーターとかになるのかと思ってたけどな」
「ああ、確かに…」
実際それも考えたけど、絵はいつでも描けるけど、パン屋さんになる夢だけは、どうしても捨てきれなかったんだ。
「着いたぞ」
「うん…」
僕がずっと好きで、商店街を通る度にいつか僕も…って思い続けた店の看板を前に、心臓がドクドクと脈打ち始める。
やっぱ緊張してないなんて嘘。
僕、しっかり緊張しちゃってるみたいだ。