十年・愛 〜あの場所で、もう一度君と…〜【気象系BL】
第7章 7
翔くんはよく「最近のお気に入りなんだ」って言っては僕に聞かせた。
僕も気に入るだろうって…
でも残念なことに、僕が好きなのはどちらかと言えばR&B系で、翔くんはHIPHOP系の音楽が好きだったから、そもそも噛み合う筈がない。
でもこの曲だけは違った。
翔くんに聞かされた数ある曲の中で、唯一僕が好きだと思えた曲だ。
だから自然と覚えてしまったし、ふと気がつくと勝手に口ずさんだりもしてた。
でもさ、まさかこのタイミングで聞くことになるとは、正直思っても無かった。
だって今こんな曲聴いちゃったらさ、余計に寂しくなっちゃうじゃん…
僕は更に寝たフリ聞こえないフリを続けるべく、車窓に顔を向けた。
そうしているうちに本当に眠ってしまった僕は、母ちゃんに揺り起こされて瞼を持ち上げた。
「本当にあんたは良く寝る子だねぇ」
「僕だって疲れてるの。しょうがないでしょ?」
本当に疲れてるのは心であった、身体ではないんだけどね。
「それにしても、良く寝る割には、あんまり身長伸びなかったわね」
「ねぇ、それ関係ある?」
なんか…、ただでさえズタボロなのに、凄くグサッと来る一言だったんだけど?
車を降りると同時に溜息を落とし、僕は座りっぱなしだったせいで固まってしまった身体を伸ばした。