十年・愛 〜あの場所で、もう一度君と…〜【気象系BL】
第7章 7
母ちゃんの運転する車で、父ちゃんが眠る共同墓地まで向かう。
母ちゃんは僕に、「免許取って」って言うけど、僕はちょっぴり怖かったりする。
そりゃ、車の免許があれば何かと便利だとは思うし、母ちゃんに楽だってさせてやることが出来る。
それは分かってるんだけどさ…
あんな風に、一瞬にして人の命を奪ってしまうような事故を経験すると、中々その一歩が踏み出せない。
僕は「考えとく」とだけ答えて、寝たフリをした。
でも母ちゃんにはお見通しで…
母ちゃんはカーステの音量を上げるだけでなく、自らも大きな声で歌い出した。
いつもの事だし、母ちゃんがめちゃくちゃ音痴ってわけでもないんだけど、正直煩い。
あーあ、なんで今日に限ってイヤホン忘れたんだろ…
僕は寝たフリを続けながら、今日一大きな失敗を悔やんだ。
その時…
「ねぇ、この曲ってあんたが好きだって言ってた曲じゃない?」
言われてカーステに音楽に耳を傾けると、流れて来る曲に聞き覚えがあった。
この曲って確か…
「あんた良く口ずさんだりしてたわよねぇ?」
確かに母ちゃんの言う通り、僕は良くこの曲を聞いていたし、口ずさんだりもしてた。
でも違うんだよ、母ちゃん。
この曲が好きだったのは僕じゃなくて、翔くんなんだよ。
翔くんが好きだった曲なんだ。