第1章 秋の声
「リリリリリ……」
聴こえてきたのは、虫の鳴き声だった。あとは手ぶればかりの暗い動画だけ。
「これって……鈴虫です?」
「そうそう、そうなのよ!」ぼんさんは楽しそうに話し出した。「最近外で鳴いてるみたいでさ、録音してみたのよ。たまに聴いてたら落ち着くし、秋だなぁって思って」
ぼんさんは結構綺麗なものが好きだ。一緒に飲食店に行くと真っ先に片付けをしてくれるし、写真も美しい景色や建物ばかりなのもいつだったかに見せてもらったことがあった。なんで喫煙所の写真なんて撮っているのかと聞いた日には、綺麗になったからが理由くらいなのだし、きっとこの人が旅行に出掛けたら、写真だらけになるんだろうなと想像するくらいには俺はぼんさんに溺れていた。
「ははっ、ぼんさんって意外と綺麗なもの好きですよね〜」
と茶化すと、意外って何よとすかさずぼんさんからのツッコミを頂戴し、こんな囁かな時間がいつまでも続けばいいと密かに思った。