第1章 秋の声
「こんなに広いんだから、奥に行くしかないでしょ」
とぼんさんの訳の分からない理由を笑って流した。ぼんさんの言っていることは面白くてつい笑ってしまう。
「まぁいいか」
とぼんさんが言うと、スマホを片手に近付いてきた。え、わざわざ離れたのになんで来るんですかと言えるはずもなく、けど、離れるよりは近くがいいという気持ちが邪魔をして遠ざかる言い訳も思いつかないまま、俺はぼんさんがそばに来ることを許してしまった。
ぼんさんはやたらニコニコしていた。俺の気も知らないんだろうな、と思いながら。
「最近さ、こればっか聴いてんのよ」
「え?」
何を話し出すのかと思えば、ぼんさんは自分の持っているスマホ画面をこちらに向けた。
そこに映っているのは真っ暗な動画。どこかの外の夜を映しているようだが、何をしている動画なのかはよく分からない。
「なんです? これ」
俺が疑問をそのまま言葉にすると、あ、聴こえないかと音量を上げてもう一度動画を見せた。